特集

    

  最初に読んだ竹中労の本は『エライ人を斬る』。渋谷古書センター地下で250円で買った。あまりに面白かったので、それ以後は古本屋で「見つけたら買い」に徹してはや10年。だいぶ集まってきた竹中の著作のなかから、いくつかを紹介する。彼の本は類書がみあたらぬものも多く、戦前の異端挿絵画家、父・英太郎の装幀の妖しさも相まって、探している人も多い。最近でも、旬の雑誌『QUICK JAPAN』で取りあげられたりしており、二冊は文庫にもなっているが、評価が定まったとは言い難い。どこかで全集を出してくれい。



 『エライ人を斬る』 1971年 三一書房

 「週刊讀売」に連載していた同名のシリーズは、時の総理大臣夫人・佐藤寛子をとり上げるに及んで佐藤筋より圧力がかかり、名誉毀損で訴えると脅されたあげくに、連載中断。
 ケンカ屋竹中がこれに黙っているはずもなく、逆に佐藤寛子と讀売新聞社社長を名誉毀損で告訴。裁判は8年にわたった末に、讀売新聞社ならびに務台社長の詫び状をとって一件落着(裁判の記録は『自由への証言』に纏められた)したものの、以後新聞系ジャーナリズムからは永久追放とあいなった。



 『タレント帝国 芸能プロの内幕』 1968年 現代書房

 芸能プロダクションの悪辣非道の内幕を暴いた本書は、最大手・ナベプロの買占め、及び大手取次拒否にあって、店頭にほとんど一冊も並ばず、まぼろしのレポートと化した。あおりを喰って現代書房は倒産した。こんなんばっかりですね。
 当時の番組予算の細目、タレント・ギャラ一覧、契約書の文面、などの社外秘資料も貴重だろう。



日本映画縦断1 傾向映画の時代』 1974年
日本映画縦断2 異端の映像』   1975年
日本映画縦断3 山上伊太郎の世界』1976年 白川書院

 映画の裏面史を追う本シリーズは、キネマ旬報に連載された。著者もライフワークと見做し、連載10年分の資料も集まっていたが、キネマ旬報社社長(大物総会屋・上森子鉄)の独断で白井編集長解任、連載中断。法廷闘争。こんなんばっかりですね。経緯はともかく、素晴らしい内容、資料、論考満載。必携です。参考までに目次。(書影は第一巻)



琉球共和国 汝、花を武器とせよ!』 1972年 三一書房

 沖縄返還に関わる'70〜72年の文章を纏めたもの。この時の沖縄行で得た島唄への関心が、後の『琉歌幻視行』につながり、『ニッポン春歌行』、『逆桃源行』、『にっぽん情歌行』へと結実する。さらに36枚におよぶ琉歌のレコードの企画・構成・解説も精力的に行った(一部はCDでも復刻・発売中)。
 ちなみに本書には現沖縄県知事・大田昌秀氏も(罵倒の対象として)登場する。



浪人街/天明餓鬼草子』 1977年 白川書院

 夢野京太郎名義のシナリオ集。京太郎(=チョンダラー・琉球語であやつり人形)は竹中個人ではなく共同執筆・いわば群体のペンネーム。。幻に終わった「浪人街」、その予告編としての「大殺陣/ニッポン剣優列伝」、鶴田浩二の依頼で書いた「血風!ラモウ守備隊」、1974年制作の記録映画「アジア懺悔行」が収録されている。
 京太郎名義では他に小説集『世界赤軍』がある。



80年代ジャーナリズム論叢 全4巻  全て幸洋出版
芸能の論理』 1982年  『仮面を剥ぐ』 1983年
左右を斬る』 1983年  『人間を読む』 1985年

 80年代前半の彼の仕事は、『庶民烈伝』を除いて、4冊のこのシリーズにほぼ収められている。読みどころは多いが、第3巻での吉本隆明との論争(ケンカ?)が何と言っても面白い。吉本のジャブに対してのクロスカウンターが炸裂しております。さらに第4巻の「がんばれ!かい人21面相」(竹中はもちろん、かい人21面相を支持しているので)、や、「三酔人TV談語」の芸も一流。



無頼の墓碑銘』 1991年 K.K.ベストセラーズ

 最後の著作集。彼はこの本を手にとることはなかったのだが。

こころして読むべし、と言いたいところではあるが、それほどの本じゃないです。

竹中労 著作リスト


 予定より工事が長引きまして、たのしみにしていた方々(いるのか?)にはご迷惑をお掛けいたしました。

第3回はマンガ大特集!!


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